【短歌】軌跡の途中(30首−α)

 

今までこう歩いてきたという、ざっくりとした軌跡です。過去作、主にうたつかい・NHK短歌・毎日歌壇より。応募中の短歌がいくつかあるので、もし世に出たらその短歌も追記していきます(※最終的には30首にしたい……。ちなみに軌跡なので自選とは別物)

かつ、かつ、とゆく歩道橋 深呼吸すればわたしがひらきはじめる

たしかめるように歩けばゆっくりと街のかたちに欠けゆくヒール

まっさらなスーツに皺がふえていき知らなくていいこともいくつか

沈みかけのゆうぐれに浸したせいでかばんがやけに重いのですが

信号のひかりがすこし淡いから「すすめ」は「すすんでいいよ」みたいね

 

肩書きをなくして歩く こんなにもゆるいカーブを描いた道で

5センチのヒールわずかにすり減ってほんとうなんて誰も知らない

梱包がうまくできないせいにしてすこし泣いたら広いアパート

しあわせの前日譚は カードキーさし込みながら「行くね」って言う

 

コピー機の端はとぎれて最初からうまくいかないことばかり好き

お、は、よ、う、のリズムで電気を点けるとき一人称がせんせいになる

まんなかを行け少年よ 階段の隅に積もってゆく綿ぼこり

すこしずつ丸みのちがう「あ」の文字が並んでふいに愛しい色紙

 

ため息をじわりじわりと曇らせてバスはゆきます 次とまります

ぬくもりがほんのり残る待合のベンチ 甘やかされていいかな

ふり返るひと/ふり返らないひとのいて等しく運ぶエスカレーター

すこしだけリュックの紐を短めにすればこんなに楽に歩ける

 

パソコンを叩くリズムで冬がくる 雪です 雪です ご査収ください

生きろ、って命令されているみたいタイムカードは奥まで沈む

夕方には真っ先にライトを灯す 伝播してゆけわたしのひかり

マニキュアを爪の根元にそっと塗る 今週もよく生き延びました

 

大根を乱切りにする 楽してもいいよと笑う人のいること

大胆なあなたが好きだ たいやきについた歯形がおおきく笑う

ひらがなで名前を呼ばれ開いてもいいかと思うドアがあること

未来などわからないけど光るならきみの隣がいいなと思う

 

スーパーのエリンギ三つ寄り添ってもうすぐ産まれてくる子を想う

狭くなることのしあわせ 小さめの食器ひしめく食卓にいる

+5首の追記中。それではまたいつか。